昇給していないのに9月から手取りが減るのはなぜ?定時決定の仕組み
- 保険料は給与額ではなく標準報酬月額(等級表の額)で決まる
- その等級は年1回、4月・5月・6月に受けた報酬の平均で決まり直され、9月から翌年8月まで適用される(定時決定)
- だから4〜6月に残業代や通勤手当が多いと、1年間ずっと保険料が高くなる
- 昇給・降給など固定的賃金が変わって2等級以上動いた場合は、9月を待たず4か月目から改定される(随時改定)
- 多くの会社は翌月控除なので、手取りに出るのは10月支給分から
最終更新: 2026年8月31日(日本年金機構・協会けんぽの公表資料を確認)
秋になると急に手取りが減るのは、社会保険料の定時決定が効いた結果です。
1. 保険料は「実際の給与」ではなく「標準報酬月額」で決まる
昇給もしていない、残業も増えていない。それなのに手取りだけが減る。仕組みを知れば事前に読めます。 健康保険料と厚生年金保険料は、毎月の給与額に直接料率をかけるのではなく、 給与額を等級表に当てはめた標準報酬月額に料率をかけて計算します。 月給が少し増減しても、等級が変わらなければ保険料は変わりません。逆に等級が1つ動くと保険料もまとめて動きます。
標準報酬月額のもとになる「報酬」には、基本給だけでなく残業手当・通勤手当・住宅手当・役職手当なども含まれます。 「基本給は変わっていないのに等級が上がった」という状況は、この点から生まれます。 料率そのものは都道府県・年度によって変わり、協会けんぽが保険料額表として公表しています。
2. 等級が決まり直されるのは年1回(定時決定)
事業主は7月1日現在で使用しているすべての被保険者について、 4月・5月・6月の3か月間に受けた報酬月額を算定基礎届で届け出ます(提出期限は毎年7月10日)。 この届出をもとに標準報酬月額が毎年1回決定し直され、9月から翌年8月までの各月に適用されます。これが定時決定です。
| 時期 | 起きること |
|---|---|
| 4月・5月・6月 | この3か月に受けた報酬が計算対象になる |
| 6月中旬〜7月10日 | 事業主が算定基礎届を提出 |
| 9月分の保険料から | 新しい標準報酬月額が適用開始 |
| 翌年8月分の保険料まで | 随時改定がない限り同じ等級が続く |
社会保険料は「当月分を翌月支給の給与から控除する」運用の会社が多く、その場合 9月分の保険料は10月支給の給与から引かれます。 「9月から上がると聞いたのに10月に減った」というずれはこれが理由です。控除のタイミングは就業規則や給与規程で確認できます。
3. 4〜6月の残業が1年分の保険料を左右する
計算対象が4月・5月・6月に限られるため、この3か月にたまたま残業が集中していると、 年間を通して見れば平均的な働き方でも高い等級のまま9月から翌年8月までを過ごすことになります。 年度初めの繁忙期・新体制の立ち上げ・決算対応などが4〜6月に重なる職場では、実際にこの現象が起きます。
では4〜6月の残業を意図的に減らせば得なのか。ここは慎重に考える必要があります。 標準報酬月額は保険料の計算だけでなく、次のものの算定基礎にもなります。
- 将来受け取る厚生年金の額(標準報酬月額が低いほど将来の年金も下がる)
- 傷病手当金(病気やケガで働けないときの給付)
- 出産手当金(産休中の給付)
- 育児休業給付(休業開始時賃金日額をもとに算定)
保険料を下げれば保障も薄くなります。目先の手取りだけで判断せず、 老齢厚生年金 計算ツール や 出産手当金 計算ツール で受け取る側の影響も見てから考えてください。
4. 支払基礎日数のルール
定時決定は、4月・5月・6月のうち支払基礎日数が17日以上の月の報酬で計算します (特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)。 支払基礎日数とは給与計算の対象となる日数のことで、日給制・時給制なら出勤日数、月給制・週給制なら暦日数で数えます。
| 4〜6月の支払基礎日数 | 短時間就労者(パート・アルバイト等)の扱い |
|---|---|
| 17日以上の月が1か月以上ある | その月の報酬の平均で決定 |
| 3か月とも17日未満 | 15日以上17日未満の月の報酬の平均で決定 |
| 3か月とも15日未満 | 従前の標準報酬月額をそのまま引き継ぐ |
なお、6月1日以降に入社した人、6月30日以前に退職した人、7月に月額変更届を提出する人などは算定基礎届の対象外です。 入社1年目の途中入社なら、初めての定時決定は翌年になります。
5. 9月を待たずに変わる場合(随時改定)
昇給や降給があったときは、定時決定を待たずに標準報酬月額が改定されることがあります。これが随時改定です。 次の3つをすべて満たしたときに行われます。
- 固定的賃金に変動があった(昇給・降給、給与体系の変更、日給や時給の単価変更、住宅手当・役付手当など固定的な手当の追加や変更、一時帰休 など)
- 変動月以後引き続く3か月の報酬の平均から求めた標準報酬月額が、従前と2等級以上違う
- その3か月とも支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)
条件を満たすと、変動後の報酬を初めて受けた月から数えて4か月目の標準報酬月額から改定されます (4月支給の給与が変動したなら7月から)。 6月までに随時改定された分は当年8月まで、7月以降に改定された分は翌年8月まで適用されます。
随時改定の入口は固定的賃金の変動です。残業手当のような非固定的賃金だけが増減しても対象になりません。 また、固定的賃金は上がったのに残業代が減って結果的に2等級下がった場合や、その逆の場合も随時改定の対象外です。
6. 賞与は別の計算
賞与にかかる社会保険料は定時決定とは無関係です。 支給された賞与額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に保険料率をかけて、支給のつど計算します。 標準報酬月額の等級が上がっても賞与の保険料が連動して上がるわけではありません。 賞与の手取りは 賞与(ボーナス)社会保険料 計算ツール と ボーナス手取り計算ツール で確認できます。
7. 9月・10月に手取りが減ったときの確認手順
- 給与明細の健康保険料・厚生年金保険料の額が、前月から変わっているか確認する
- 変わっていれば、勤務先から交付される標準報酬決定通知書で新しい等級を確認する
- 4月・5月・6月の給与明細を見返し、残業手当・通勤手当が普段より多くなかったかを確認する
- 保険料以外(住民税・所得税)が動いていないかも確認する。6月に変わったなら住民税、9月・10月に変わったなら社会保険料の可能性が高い
6月に手取りが減った場合は社会保険料ではなく住民税の改定が原因です。こちらは 住民税決定通知書の見方 を参照してください。
8. よくある質問
昇給していないのに9月から手取りが減るのはなぜですか?
定時決定によって標準報酬月額が決まり直され、9月分の保険料から新しい等級が適用されるためです。 健康保険・厚生年金の保険料は毎月の給与額そのものではなく「標準報酬月額」という等級表の額で計算されます。 この等級は毎年1回、4月・5月・6月に受けた報酬の平均で見直され、9月から翌年8月までの各月に適用されます。 したがって基本給が変わっていなくても、4〜6月に残業代や通勤手当が多ければ等級が上がり、9月から保険料が増えます。
4月・5月・6月の残業を減らすと社会保険料は安くなりますか?
計算対象がこの3か月の報酬なので、理屈のうえでは等級が下がり保険料も下がります。 ただし標準報酬月額は将来受け取る厚生年金の額や、傷病手当金・出産手当金・育児休業給付の算定にも使われるため、下げれば保障も薄くなります。 また残業代の増減は固定的賃金の変動ではないため、随時改定の対象にもなりません。目先の保険料だけで判断しないでください。
定時決定で決まった保険料はいつからいつまで適用されますか?
その年の9月から翌年8月までの各月に適用されます。 事業主は7月1日現在で使用している全被保険者について、4月・5月・6月の報酬月額を算定基礎届で7月10日までに届け出ます。 なお多くの会社は当月分の保険料を翌月支給の給与から控除するため、手取りに反映されるのは10月支給分からになります。
支払基礎日数が17日未満の月があるとどうなりますか?
その月は平均の計算から除かれます。定時決定は4月・5月・6月のうち支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)の月の報酬で計算します。 パート・アルバイト等の短時間就労者は、3か月とも17日未満なら15日以上17日未満の月の平均で決定し、3か月とも15日未満なら従前の標準報酬月額がそのまま引き継がれます。
昇給した場合、9月を待たずに保険料が上がることはありますか?
あります。随時改定です。(1)昇給・降給など固定的賃金の変動があり、 (2)変動月以後3か月の報酬の平均から求めた標準報酬月額が従前と2等級以上違い、 (3)その3か月とも支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)、の3つをすべて満たすと、 変動月から数えて4か月目の標準報酬月額から改定されます。
賞与にかかる社会保険料も4月〜6月の給与で決まりますか?
決まりません。賞与の保険料は定時決定とは別で、支給された賞与額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に保険料率をかけて計算します。 つまり賞与を支給するたびに個別に計算されるため、標準報酬月額の等級とは連動しません。
参考にした一次ソース
- 日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」(4〜6月の平均・9月から翌年8月まで適用・支払基礎日数・短時間就労者の扱い)
- 日本年金機構「随時改定(月額変更届)」(固定的賃金の変動・2等級以上・4か月目からの改定)
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」(標準報酬月額・標準賞与額の考え方)
- 協会けんぽ「都道府県毎の保険料額表」(等級表と都道府県別の料率)
関連ツール
- 社会保険料計算機【2026年版・都道府県別】 — 報酬月額から保険料を計算する
- 手取り計算機 — 社会保険料・所得税・住民税を含めた手取り
- 賞与(ボーナス)社会保険料 計算ツール — 賞与の保険料
- 住民税決定通知書の見方 — 6月に手取りが減ったとき
- 残業代 計算ツール — 4〜6月の残業代を確認する
本ページは日本年金機構・協会けんぽの公表内容に基づく一般的な解説です。 保険料の控除タイミング(当月控除か翌月控除か)は会社の給与規程によって異なります。 健康保険組合に加入している場合は料率が協会けんぽと異なります。 個別の等級・保険料は勤務先の担当部署または最寄りの年金事務所へご確認ください。